2022年度事例検討会: 代表 宮本ゆみこ
●2023年3月2日の事例検討会報告
今回は19歳の男子 ADHDと診断はされていますが、残念なことに、保育園から高校まで、特性への理解は得られず、適切な支援がないままニ次障害による症状が出ているようです。
厄介な状態ですが、救いや希望がないわけではありません。
背景情報によれば、いつも彼は初めは頑張って登校しています。でも、一年くらいで登校が続かない。
それに色々やりたい事は出てきて,
バイトも毎日ではないにしても続けています。
学校は続かなくても、バイトは頑張る子も結構います。友達も多い。
居場所があるのですね。
でも、やり出したことが続かなかったり、目的を果たすプロセスに不適切な行動があったり
特に手続き系の事は先延ばしにしたり、
具体的に段取りを踏んで処理する事が苦手なようです。
特性から来ているので、そこは責めたり嘆くのではなく
できるサポートはしないとしょうがないのでしょう。
今からでも次の事に気をつけて対応されてくださいと安原ドクターと伊丹先生からのアドバイスです。
@話をとにかく聞く
A否定したり説得したりせず,共感
Bただし、社会的に許されない言動には、気持ちはわかるが、親御さんはこう思う、と、きっぱり伝える
この3つはどんな状態の子にも必要ですよね。
でも、親というさがが、これを難しくするのです。何度も何度も唱えていきたい事ですね。
●2023年1月12日事例検討会報告
今回は中3の男子のアンガーマネージメントが親御さんからの主訴でした。
ゲームに負けるとipadやパソコンを破壊してしまい、それが月に数回起こるということです。癇癪を起こすと壁やドアにも穴ぼこ多数。
確かに、怒りの感情は抑えてもらわないと家族はたまりません。
でも、よく話を聞くとipadは学校で使われているもので、勉強がわからないとipadを壊してしまうということです。
Wiscの検査をしてみると、知的能力は高めですが、書字活動とoutputに困難を抱えていることがわかりました。
回答内容も実に真っ当な答えが返ってきますし、文章構成力も問題ありません。
ところが漢字の習熟は非常に遅れており、言語で文章で答える時には体を動かしつつ絞るように言います。
LDとして合理的配慮が必要なケースです。
怒りのコントロールの背景に明らかな学習上の困り感があることがわかります。
また今回は3人も中学の先生が参加してくださり、学校での様子を聞くことができました。
有名私立中学で、お聴きするとipadはかなり有効に使われていると思いましたが、個別に必要なアプリ使用はもっと改善の余地がありそうです。
学校では彼は中1からずっと生徒会で頑張っていて、人に思いやりをもち、人が自然に彼の周りに集まるのだということでした。
彼は、知らない人や初めての場では臆する事が多いし、寡黙になるらしいですが、慣れた場所や人の前では活発で伸び伸びしており,人を笑わせたり和ませるということでした。
また、どんな風に授業に参加されているかもお聞きできて、学校の様子から、彼の良さも深みを持って知ることができました。
つまり、学校生活には満足しているのですが、苦手な学習に直面するとしんどさやイライラが嵩じると判断できます。
デバイスを破壊したり、母親の当然の注意にも威圧的で攻撃的になるのも
全ては彼の学習面での困難さへの理解が充分ではなく、本人自身も自分の事がわかっていなくて、できない自分を不甲斐ないと思っているのです。
さて、先生方も、彼の良さや本来の目立ちたがりな性格は十分汲み取っていただいており、彼の良さにフォーカスしていきたいと思ってくださっているのですが、知的に高く、周りに配慮できる子は、自分から助けを求めることは思いつかないし、プライドもあっておそらく言えないのです。
友達も宿題に手をつけない彼に助けを差し伸べてくれるのですが、
彼にしたら、さんざんこれまで彼なりに努力してきて、結果を出せていない課題に向き合うのは、もう精神的に限界なのではないでしょうか。
親切な友人の助けもまた、辛い現実に無防備に引き摺り出されることになるのです。
まして、友人が励ますつもりで発する言葉の数々は、彼の弱りきった自尊心を容赦なく直撃するのです。彼にしたら、勉強なしで友人関係を保ちたいのです。
大人も一緒です。叱咤激励が彼を追い込むのです。
彼のように表に出ている様子からは、LDのしんどさは本当に分かりにくいものです。
そしてこのようなタイプの子はクラスで2%だと言われているそうですが、検査では頻繁にであいますし、ドクターが怒りを込めて訴えられたように、
彼らのしんどさを理解し、彼らにあった学習指導が、この国の教育システムになかなか取り入れられないことで、有能な子どもたちの少なからずが、不登校として埋もれてい現実を見過ごす事はできないのです。
幸い、危機感を抱かれた親御さんが事例に応募する勇気によって彼はすんでのところで助かったと私は思います。
今回は2度目の応募事例でしたが、小学校低学年時に出てくれた時、私は漢字の習熟に困難を持つとしっかり予測してただろうかと、反省しています。wiscのプロフィールはよく変わる子も多いので、何とも言えませんが、検査結果だけではなく、日頃の様子の情報との照合が非常に重要だと思います。
彼は精一杯、学校では良い子を装うっていたと思います。
しかし、高校への内部進学をまじかに控え、これまでのようにやり過ごす事は出来ず、焦りは極度に高まっていったはずです。
学校では元気だった子が、先生にも感じ取れるくらい徐々に元気がなくなっていった事にもあらわれているでしょう。
検査時にもなんとなく自信のなさが溢れていて、その事が気になりました。
学習面での具体的な配慮については今後の話し合いに委ねたいと思います。
なお、ipadを壊す対応は、家に持ち帰らないということになりました。
宿題は、放課後の時間を使い学校で対応するとのことで、担任の先生にはさらにご負担をおかけすることになりますが、日本のかけがえのない人材育成だと受け止めていただけると、ありがたいです。
また家庭のパソコンをゲームにまけて壊すなら、すぐに買うのはやめるべきです。
新しく買うなら、ポイント制度でポイントを貯めさせて購入するのが良いと思います。これは、すでに主導権をとっている彼は怒るでしょう。
しかし幸い、彼は冷静にその理由や、親御さんの願いを伝えると聴く耳を持っています。一時、激昂しても、必ず理解して、親御さんの期待に沿うよう頑張る子だと思います。
子どもが激昂しても、冷静にひるまず、身の危険を感じたら、忍者になって、その場から消えて、落ち着いたらまた話し合いをします。
親の本気度を冷静に示しましょう!
いつでも忍者になれるように財布や携帯はいつでも身に着けておきましょう。
●2022年11月11日事例検討会報告
今回は小1男子二人の事例検討会でした。
A君の課題は、怒りっぽく、思い通りにならないと噛む事が常態化。クラスメイトとも兄弟ともトラブルが絶えない。
B君は、今、A君とはクラスメイトで、もっともトラブルが多く、こちらは,転導性があり夢想家,のび太タイプ
今回は、安原ドクターが参加してくださり、医療的見立てには、毎回敬服。
検査結果の解釈、状態への投薬の見立て、さらに診断の根拠などやっぱり違うなあ、さすがだな、と思いました。
また、二人とも今は目立っていないけど、この先書字課題で躓くことが予測され、対応が急がれます。紙と鉛筆にこだわらず、ICTの活用が望まれるとのこと。
「低次の読み書き」ではなく、「高次の読み書き」を重視するべき。思考に使う時間を!
とは、伊丹先生のまとめ
ですよね、ほんとになかなかそこに行きつかないのは何故?でした。
詳しくは,ここでは紹介できませんが、今回も実りの多い学びとなりました。
●2022年7月14日の事例検討会報告
今回は、親子間でやりとりしたLINEを資料の一部に提供していただき、事例の青年の理解と対応を考えました。
青年の言動はそのまま受け止めると 勝手な言い分を言っているなあと思うのですが、根底には自己肯定感の著しい低下があり、愛着の課題を抱えているとのことでした。
親御さんにすれば、それを認めることは容易ではないと思います。人の道に外れないように、人に迷惑をかけないようにと愛情を持って育ててきたつもりが、子どもにとっては自分を認めてもらえていないとずっと感じてきて、今があるようですから。
親御さんは、我が子が小さい頃から、次々に起こす騒動の対応に追われて、不安ばかりが大きくなっていったようです。
ひとり暮らしを強く訴えるも、何かと不安が大きいので,どうしたものかと悩まれるようですが、制限や条件をちゃんと相談されて、ひとり暮らしを応援するのが1番の治療だとドクターからの助言でした。
また愛着形成のやり直しは,小学生まで。今後は、家族となる人との愛着を築く事が課題だとのことでした。
ひょっとすると、親御さんには、予期せぬ辛い現実を突きつけられた感じだったかもしれませんが、親御さんへの伊丹先生の労いと励ましの言葉は、今回もホロっとします。救われる思いでした。
また
「男の子を家から出すと、ロスに悩まされ落ち込むけど、この子が今に事業とかに成功したら、めちゃくちゃ嬉しいはず。結婚すれば、孫も増えるし」
と、安原ドクターの言葉。
皆様、今回も真剣な検討会ができましたこと,感謝いたします。
●2022年5月12日事例検討会報告
主訴; 不登校や登校しぶりの小学5年生への支援と母親支援
今回、子どもへの第一支援は、「自己理解を深める」ことだと、 伊丹先生からのまとめ。
自分は何者かを知ることは、どの子にも必要。
そのための心理検査であるwiscは非常に大きな手がかりになると。
また、2月に4から5に変わり、知能の偏りだけではなく、適応行動を知る事も大きな狙いだということです。
適応行動尺度はVineland-IIを活用するのが推奨されているそうです。適応行動の発達水準を幅広くとらえることができ、支援計画作成に役立つそうです。
これは納得します。
今回は、支援級の担当の先生からの応募です。とても親身になって関わっていただいていますが、困っている子どもの背景には色々な人間模様があって、必ずしも学校との連携が上手くいかないケースが多いです。
診断はされていて、福祉サービスを使ってデイサービスを使っていても、特性への理解が乏しいとトラブルは大きくなっていき、退所を求められるケースもあります。
またせっかく医療機関と繋がっても、いつのまにか行かなくなったりして、さらに親御さんが我が子との接し方が分からず疲れ果て、主導権を子どもに取られて親子関係は上手くいかないケースも多いです。
それらから逃げていては、先でもっと親子とも追い詰められてしまう。
ただ、子ども支援は親支援でもあり、どんな有効な情報や支援が目の前にあっても、それを受け取る親御さんのキャパやタイミングを見定めることが大事で、その中で、できることを積み上げていくことが支援者の大事な視点なんだろうなと思います。
そして、一生懸命寄り添おうと努力し続ける支援者である先生方が、心折れないように支えられる支援も充実できると良いなあと思います。
支援の引き出しはいっぱいあっても、個々のケースで使える引き出しはたいていわずかです。
今回の伊丹先生の名言を一つ紹介。
「雨が降ったら、濡れて嫌だなと思うか、ピチャピチャ水遊びができる、と思うかだ」
つまり、凝り固まった硬い思考を柔らかくする支援が、自己理解を深めることにも繋がるということだと思います。
いつもながら、イメージしやすい喩えが有難いです。
今回も事例応募いただき、貴重な学びをいただきました。多謝です。